M&Aをテーマにした投資信託

日経会社情報DIGITALでM&Aをキーワードに銘柄検索を行うと、M&A仲介会社の個別株に加え、M&Aというテーマが投資対象になっている投資信託が抽出されました。M&Aに関する投資戦略としては、伝統的にはマージャー・アービトラージという手法が知られていますが、最近では、M&Aを積極的に活用する企業群に投資する手法も生まれているようです。この新たな手法について、ある投資信託(仮称:M&A投信)の目論見書等を調べたところ興味深い内容でしたのでご紹介します。

 

M&A買収側企業に着目することを投資戦略とするM&A投信


M&A投信は、M&Aの買収側企業に着目する理由を、環境変化に柔軟に対応する成長戦略にあるとしています。なお、過去20年間で世界株式インデックスは約3倍になっていますが、M&Aを積極的に活用する企業群の株価は約5倍になっているとのことです。ここで「M&Aを積極的に活用する企業」というのは、過去5年間累積で30%以上もしくは過去5年単年で50%以上M&Aにキャッシュフローを使っている企業と定義されています。

世界のGDP成長率が鈍化し、企業の競争環境が激化している中、低金利環境により資金調達コストが低下しており、世界のM&A件数が増加しています。M&Aは事業を育てる時間を買うことができ、すでにある事業とのシナジー効果も期待できるため、メリットがあるとされています。

M&A投信が設定されたのは2020年でしたが、現在はインフレと金利上昇が起きており、M&A件数の増加要因として挙げている金利条件は既に失われています。実際、Refinitivによると2023年2月までの世界のM&A実行額は前年比▲58%に落ち込んでいます。しかし、このような環境下でも、M&A買収側企業へ投資することはおそらく間違いではないでしょう。

 

3タイプのM&Aプレーヤー


M&A投信は、3タイプの企業をM&A巧者としています。事業発掘型のインキュベーター、事業分散型のコングロマリット、事業統合型のオペレーターの3つです。それぞれの特徴をみていきます。

事業発掘型であるインキュベーターは、成長力のある企業を発掘して大きく育て上げるハンターです。企業の潜在的価値を見極める発掘力が得意分野とされます。例としては、カナダのコンステレーション・ソフトウェアが挙げられています。傘下に200以上のソフトウェア企業を抱えている企業で、世界20万社以上のソフトウェア業界から常時3万社をモニタリングして買収機会を発掘しているとのことです。

事業分散型であるコングロマリットは、優良事業を有利な条件で取り込む交渉上手なディールメーカーです。有利な条件を引き出す交渉力が得意分野とされます。例としては、米国のバークシャー・ハサウェイが挙げられています。バークシャー・ハサウェイについては異論のないところです。日本では上場がまだ一般的ではありませんがプライベート・エクイティはこの属性に入ると思います。

事業統合型のオペレーターは、事業統合で成長を加速し、1+1を3にする敏腕プレーヤーです。シナジー効果を発揮する統合推進力が得意分野とされます。例としては、日本電産が挙げられています。ここで日本企業を挙げてくるところが日本の投資家向けの商売気があり面白いです。

 

ポートフォリオの絞り込み方


M&A投信は、リサーチによってポートフォリオを15-25銘柄に絞り込むとのことですが、その過程にも興味深いものがあります。

まずグローバル株式市場の約5,000銘柄から、株式調査部門がカバレッジしている約2,000銘柄に絞り込みます。話が逸れますが、アナリストにカバレッジされない銘柄はグローバルなアクティブ運用からは対象外とされる現実が読み取れます。

次に、M&Aを積極的に活用する企業かどうかで投資対象ユニバースを作りますが、この段階で100-150銘柄程度に絞り込まれます。資本政策におけるM&Aの優先度が高く、外部成長の取り込みによる企業価値向上を図っている企業を特定し、キャッシュフローの大部分をM&Aに充てている企業などを選別し、ヒアリングなどを通じて「M&Aを経営戦略の中核として位置付けているか」を判断しています。

これらの投資対象ユニバースから、発掘力、交渉力、統合推進力をそれぞれ10点満点で評価し、15点以上であれば重点調査対象になります。また、各企業のスキル特性に応じて、インキュベーター、コングロマリット、オペレーターのタイプを判別するようです。このようにして、重点調査対象を50銘柄程度まで絞り込みます。

最後にタイプ別に重点調査を深く実施し、確信度に基づいて各タイプの上位銘柄をポートフォリオに組み入れ、市場環境等を考慮してタイプ別のウェイト調整を適宜実施することで15-25銘柄に投資するとのことです。

また、市場の局面に応じたウェイト変更もよく考えられています。市場が割高な局面ではコングロマリットのウェイトを拡大し、割安な局面ではインキュベーターのウェイトを拡大、オペレーターについては規制緩和局面でウェイトを拡大するとのことです。

 

実際のポートフォリオ構成銘柄


M&A投信の直近のポートフォリオを見てみますと、銘柄数は25で、地域では米国67%、カナダ15%、オランダ5%、デンマーク4%、フランス3.3%。日本はそれに続いて3%の構成でした。最後に英国が1.8%です。

業種では情報技術が26%、資本財が20%、コミュニケーションサービス17%、ヘルスケア13%、金融11%。それに続いて一般消費財・サービスが8%、生活必需品3%となっています。

タイプ別ではオペレーターが61%、コングロマリットが20%、インキュベーターが19%でした。

銘柄でいうと、トランスダイム(9.8%)、テイクツー・インタラクティブ(6.9%)、コンステレーション・ソフトウェア(6.5%)、ストライカー(5.7%)など日本ではあまり耳にしない会社が並びます。上位10銘柄のうちでは、ウォルトディズニーが8番目で4.5%を構成するオペレーター銘柄になっていました。

2021年12月の運用報告書の明細を見ると、当時は、ハイブランドのLVMHが4.5%、資生堂が1.6%入っている一方でウォルトディズニーは2.0%でした。頻繁にポートフォリオの構成を変えているようです。

これだけ手間をかけていることもあってか、販売手数料が3.0%、運用管理費用が実質税込1.78%程度という高コスト商品になっているため、購入するのには少々戸惑いが生じます。しかしながら、M&Aをテーマにした投資信託のアプローチからは、色々示唆も得られます。

テーマに沿った絞り込みと継続的な銘柄ウォッチという手法は、同業や買収したい分野の調査などでも有効です。Bloombergなどの各種データサービスを活用すれば、一度調査して終わりではなく、自動継続ウォッチも可能です。いくつかのポートフォリオを、投資対象とせずとも、情報として継続フォローするのも良いのではないかと思います。



ガーディアン・アドバイザーズ株式会社
代表取締役社長 兼 CEO
佐藤 創

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