#3 要件定義は「翻訳」と「合意形成」 ― プロジェクト成功の分水嶺
業務整理によって現状と課題を明らかにしたら、次は「要件定義」のフェーズに進みます。ここで誤解されがちなのが、「要件定義=システム設計」という考え方です。しかし、実際の要件定義は、単なる設計ではありません。現場の要望を具体的な仕組みに“翻訳し”、関係者の間で“合意をつくる”プロセスなのです。
要件定義は「要望を要件に変える」作業
現場から上がる要望は、「もっと便利にしたい」「データを早く見たい」といった漠然としたものがほとんどです。それを「誰が」「どんな目的で」「どのように使うのか」というレベルまで具体化していくのが要件定義の役割です。
たとえば、「顧客情報を簡単に探せるようにしたい」という要望は、「検索結果を3秒以内に表示」「取引履歴と問い合わせ履歴を同時に表示」といった条件に落とし込むことで、初めて“再現可能な設計要件”に変わります。
「なんとなく不便」を言語化する力
要件定義を進めるうえで最も重要なのは、“なんとなく不便”を言語化する力です。現場の人は、自分の業務を説明することが難しく、「このシステム、使いづらい」といった抽象的な声になりがちです。しかし、その一言の裏には、「検索に10秒かかる」「同じ情報を二度入力している」といった具体的な課題が隠れています。
要件定義では、こうした曖昧な声を丁寧に聞き取り、言語化していくことが重要です。これができて初めて、設計や開発チームが正しく“課題の本質”を理解できるようになります。
仕様よりも大切なのは「意図の共有」
要件定義を“仕様書づくり”と考えてしまうと、本質を見失います。重要なのは、「なぜその機能が必要なのか」「それを実現すると何が変わるのか」という意図の共有です。もし意図の共有を怠ったまま仕様を固めてしまえば、「仕様通りに作ったのに誰も使わない」という事態に陥ります。逆に、意図さえ共有されていれば、多少の仕様変更があっても混乱は起こりません。
つまり、要件定義とは“合意のためのプロセス”であり、最終的なアウトプットではないのです。
要件定義は“翻訳”であり“合意形成”
現場とIT部門、経営層の間には、それぞれ異なる言語と視点があります。現場は「日々の不便」を中心に語り、IT部門は「システム構造」で考え、経営層は「投資効果」や「リスク」で判断します。
この三者の考え方をすり合わせ、共通の言葉と目的意識を作ることこそが要件定義の本質です。
当社は、こうした多層的な立場の間に立ち、翻訳者としての役割を担います。単に“要求を整理する”のではなく、経営・現場・ITが同じ方向を向けるように橋渡しを行い、関係者全員が「自分たちのシステムだ」と感じられる合意形成を支援します。要件定義のゴールは、ドキュメントを完成させることではなく、「全員が納得して動き出せる状態を作ること」にあります。
まとめ
業務整理、要件定義を軽視したプロジェクトは、ほぼ確実に手戻りや混乱が発生します。「要件が足りなかった」「想定と違った」という言葉が出るたびに、コストと工期が膨れ上がります。逆に、要件定義を丁寧に行ったプロジェクトは、開発以降の工程が驚くほどスムーズに進みます。
要件定義とは、単なる文書づくりではなく、“未来を共有するための設計図づくり”です。関係者全員が納得し、自分の役割を理解したうえでスタートできるかどうか。それが、DXプロジェクトの成功を左右する最大の分岐点となるのです。





