DXで電力消費が増えているという「不都合な真実」をどう考えるか

夏の電力安定供給が厳しい状況にあるとして、政府が7年ぶりに全国の家庭や企業に対する節電要請をした。背景にはウクライナ情勢があり、G7各国で足並みを揃えたロシアへの経済制裁の一環で、日本政府もロシアからの原油輸入を禁止する判断をしたことが大きいとみられる。一方、現在国内の原発33基のうち、29基が運転停止中であり、太陽光や風力といった再生可能エネルギー由来の電力への期待がますます高まる。今や、国内の発電電力量に対する自然エネルギーの割合は2割を超えているが、太陽光発電は天候に左右される側面や蓄電の課題がある。電力の安定供給や消費のあり方について、これまで以上に考える必要がある夏となりそうだが、このトピックについてIT前提経営®︎ブログで書く理由はただ一つ、世の中のDXとの関連である。昨今のデジタル化が、エネルギー消費の側面から語られることは少ないが、実はデジタルは大量の電力を消費している。今回はこのことについて、SDGsの観点からも考えていきたい。

従来はユーザーが手元のコンピュータで利用していたデータやソフトウェアを、ネットワーク経由で利用するクラウドサービスが一般化し、政府も2017年に「クラウド・バイ・デフォルト」原則を閣議決定した。ご存じの通り、私が提唱するIT前提経営®︎の6大要素の中にも「クラウドサービスの適切な導入」がある。こうしたサービスを可能にするのは、データセンターの存在だ。データセンターにはあまたのサーバーがある。サーバーの中には多数の半導体があることはご存じの通りで、それらが演算を行うことによって、大量の熱を放出する。このデータセンターが、今では世界中の至るところに設置されていて、今のサイバー空間、つまり表象としてのクラウドサービスを実現している。

このクラウドによって、デジタルツインが実現され、Facebookは「Meta」と社名変更をして、とてつもない演算能力を必要とするメタバースに本腰をいれはじめる。このメタバースがらみの銘柄が株式市場では活況で、数年後には100兆円に迫るとも言われており、まさにデジタルツインの仮想の世界の側の拡張により、鈍化してきた世界経済が伸びると期待されている。ブロックチェーン技術のように、演算にものすごく大量の処理能力が必要な技術がインフラ化したことで、その上で動く、アプリケーションとしてのNFT(Non Fungible Token;非代替トークン)や、その結果としての仮想通貨も、多数生まれた。これらすべてはそのクラウド上の出来事である。

こうした中にあって、昨今では手元のパソコンのCPUの処理速度よりも、クラウドの処理速度の方がモノを言う時代になっている。例えば、グーグルクラウドプラットフォーム(GCP)や、アマゾンウェブサービス(AWS)マイクロソフトのアジュールが、3大パブリッククラウドと言われているが、超大手企業が用意したクラウドの上で、各企業がさまざまなアプリケーションを開発する時代に完全に突入した。つまり、それらのアプリケーションのスピードは、まさにクラウドの力量次第なのだ。

ブロックチェーンも同様で、仮想通貨の安定運用に必要な「マイニング」のための機器(マイニングマシーン)も世界中で大量に電力を消費している。デジタルツイン、Web3ソサエティー5.0といった、DX化した世界のこうした「副反応」について、果たしてどれほどの人たちが認識し、あるいは問題意識を持っているだろうか。かつてAI(人工知能)の電力消費について指摘されたことがあったが、そもそもAIがサービスの基盤としているのは今の時代、クラウドで、その実態であるデータセンターが大量の電力を消費している。

「日本データセンター協会(東京・千代田)によると、大型の設備で1カ所あたり10万キロワット規模の電力供給が必要となるという。単純換算で原発0.1基分」(『日本経済新聞』デジタル版、2021年5月13日)であり、先の見通しとしては、「科学技術振興機構の低炭素社会戦略センターの推定では、現在のサーバーの性能などを前提にした場合、データセンターの30年時点の電力消費(世界)は3000テラ(テラは1兆)ワット時に膨らむ。足元のデータセンターの世界電力消費は200テラワット時程度とされ、現在から15倍程度に膨らむとの試算」(『日本経済新聞』デジタル版、2022年1月23日)が出されている。二酸化炭素の排出量に関しては、「データセンターの電力消費量は、さまざまな消費者の中でも最大級で、世界の電力の2%を消費しており、航空業界全体とほぼ同量のCO2を排出しています。また、その電力消費量は、4年ごとに倍増し続けており、IT業界の中でも二酸化炭素排出量が急速に増加している分野となって」(『Western Digital Japan Blog』、2021年12月10日)いるとの考察もある。

こうしたことは当然、カーボンオフセットに逆行する。燃費の改良などは続けつつも、どうしても排出量を抑制できない部分は、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動へ投資することで「相殺」する。これを環境省は上場企業に課し、上場しようとする企業にも、監査法人がその達成度を確認する可能性が将来あるというようなことを以前ブログでも書いたが、クラウドのサービスベンダーやインターネットのプロバイダーだから問題がなくて、配送用のトラックを多数所有している会社だからだめだということではなく、同列に考えなければならない。

ところで、興味深い話題がある。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が、直近行った同社の決算発表の中で、資本参画している英半導体設計企業Arm(アーム)への投資について「攻めの領域」として語っている。かつて米半導体企業への売却を計画していたが、独禁法への抵触を指摘され、叶わなかった。アームの半導体は、インテルやAMDという超大手と比べ、処理速度が遅いと言われ、同社が買収した際も批判されていた。

一方で、IoT(モノのインターネット)の時代は、必ずしも半導体のパワーが必要ではない側面を持ち合わせている。例えば我々が使うパソコンでは、マルチタスクを前提としている。従って複数のアプリケーションを使って重い処理をしようとすると、もう少し処理速度が欲しい時がある。そこで、パソコンはマルチコアになり、8コア、10コアといったものが出てきて、コアが増えることによって半導体の需要は増えていく。そこへきて、先ほど述べた電力消費の問題がある。クラウドが大量の電力を消費しているので、サーバーに沢山載っているチップ(半導体)あたりの電費が考慮される時代になってきた。ところが、アームの半導体は、パワーはそこそこだけれど電費がいいというのが孫氏の主張だ。要するにパーワットアワーの処理速度という点では、インテルを抜いて圧倒的にアームが強いという主張がそれだ。

IoT時代、さまざまな場所にセンサーが設置され、自動車にも何十個というセンサーが取り付けられている。例えば自動運転を司るものであれば、ミリ波レーダー、複眼カメラ、LiDARセンサーなどから集まるデータを処理するのに、アームがデザインした半導体は適しており、事実、同社は、先進運転支援システムや車載インフォテインメントにおける市場シェア(2019年)が75%であると発表している。過大な処理速度よりも「電費」。電力供給の不安定さも相まって、そういう特徴が注目される時代になっているのが興味深い。

かくいう私もプラグインハイブリッド車(PHEV)に乗っている。エンジンを使わずに4、50キロ走ることもできるので燃費が良いとされている。長野県白馬村の自宅に帰ると車庫で充電するのだが、電化の難しさを痛感する。前輪はガソリンで動き、後輪は電気モーターで動く仕組みなのだが、結局冬の間は雪道を走るために4輪駆動が必須で、ガソリンを使わざるを得ない。充電にしても、一般的な40アンペアだとブレーカーが落ちるので、60アンペアで契約をし直した。すると電気代が年間5、6万円は最低でも上がる。さらに、リチウムイオンバッテリーを大量に積んでいるため重量があり、タイヤの消耗も早いし、そもそも重量級なので、燃費もさして良くない。つまり、私の車は脱炭素化に貢献しているかどうか不透明で、少なくとも私の財布には優しくない。一体何を持ってエコと言い、何を持ってカーボンオフセットへの貢献と言うのだろうか。

こういった状況の中、国は自動車のEV化を進めようとしている。ヨーロッパでは急激にEVシフトが進んで2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する方向に動いており、日本でも前政権下、2035年までに新車を全てEV化する目標が掲げられた。これに対して、豊田章男・日本自動車工業会会長が怒りの会見をしたことは記憶に新しい。その内容が、脱炭素化=電化(BEV化=Battery Electric Vehicle)という目標と、電力供給のキャパシティとの関係で考えさせられる内容なので、最後に少し触れておく。

「夏の電力使用ピーク時、乗用車400万台がすべてEV車になった場合は電力不足になり、解消には発電能力を10から15%増やさないといけない。原発でプラス10基、火力発電ならプラス20基必要な規模」「充電インフラの投資コストは14兆円から37兆円。自宅のアンペア増設には10から20万円、集合住宅なら50から150万円、急速充電器の場合平均600万円の費用がかかる」。豊田会長は、具体的な数字を挙げながら、脱ガソリンへの性急な移行が企業にとっても一般の人たちにとっても相当な負荷となっている点を、痛烈に批判した。

電力供給の問題は、ウクライナ情勢により逼迫したものとして認識されているが、考えてみれば、ウクライナ以前から足りていなかった。テレワークによって二酸化炭素の排出が抑えられたと都市伝説のように言われたことがあったが、クラウド側でCO2を大量に排出している事実はあまり報じられない。

「カーボンニュートラルに対しても、国のエネルギー政策の大転換が必要だということを認識しつつ、我々自動車業界は積極的にチャレンジする」。豊田会長は会見でそう宣言した。車をEV化すればエコ、とか、業務をDX化すれば効率的、という単純な話ではない。脱炭素化もDXも、どちらも時代の要請であることには間違いないが、より丁寧な議論をしない限り、どちらも良い方向には進まないだろう。



ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー 兼 IT前提経営®アーキテクト
立教大学大学院 特任准教授
高柳寛樹
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高柳の著書はこちらよりご参照ください。
続・まったく新しい働き方の実践〜なぜ働き方は自由にならないのか。DX未完了社会の病理〜(ハーベスト社)2022
「IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く(近代科学社digital)2020
まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017
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