GAFA優位に対抗する概念、Web3

Web3(読み方:ウェブ・スリー)という言葉と概念が固まりつつある。日本ではかつて梅田望夫が『ウェブ進化論』という大ヒットした新書の中でWeb2.0の世界について整理して言及していた。つまりその前はWeb1.0の世界だった。Web1.0、Web2.0と来たのだから、次はWeb3.0と思われるかもしれないが、今回はWeb3である。どうしてこれまでの流れを踏襲しなかったのか。たぶんそれは、Web1.0と2.0へのカウンターカルチャー的な意味合いがこのWeb3には含まれるからだろうと思われる。

その昔、私が大学院でインターネットの技術の根幹であるTCP/IPTransmission Control Protocol / Internet Protocol)というパケット通信技術の社会化(Socialized)について研究していた頃、インターネットはその出自からして民主的な道具であり、この技術が発展して使われた結果、世の中の情報格差はなくなり、中央集権的ではなく分散的でより自由で民主的な社会が実現されるという言説が飛び交っていた。無論、現在においてもその一面は全く否定しない。このブログでNo Making, Just Usingについて何度も書いてきたが、超巨大企業だろうと、家族3人で経営する工場だろうと、使うクラウドサービスと値段は一緒の時代だ。これは民主化が進んだと表現する以外にどう表現すれば良いだろうか。

さて、その上でWeb3を簡単に整理していきたい。Web1.0と2.0を説明する際、日本の私たちの世代は「ぐるなび」と「食べログ」の違いと説明する人が多かった。「ぐるなび」は、飲食店ごとに専用のページが作られ、お金を多く払った飲食店のページがユーザーに対して有意な場所(上位)に表示される仕組みである。また同社は営業マンを沢山かかえて営業活動を行うことで、ページを作成する飲食店を増やしていた。それが黎明期から発展期の「ぐるなび」のビジネスモデルだった。これに対して「食べログ」は、当初、個人の作ったサービスだった。つまりCGM( Consumer Generated Mediaの略でインターネットを通じてユーザー自身が発信することで作られるメディアのこと、代表例はブログである )とも言われたように、プラットフォームは用意するが、飲食店の写真や評価は実際にその飲食店を利用したユーザー自身が行い、その結果として自動的に「食べログ」全体が完成していくのである。従って、「食べログ」の方が人々の声が反映されているため「信頼できる」と評価され、「食べログ」は「ぐるなび」一強へのデストロイヤーになり、「ぐるなび」はWeb1.0的で「食べログ」はWeb2.0的であると説明がされた。

こういったブログ的なものや、もっというと最近のソーシャルメディアやWikipedia的なサービスなどはいずれもCGMであり、オープンソース運動の活動家であるティム・オライリーは、これらのユーザーによるサイバースペースの広がりを指して、Web2.0と呼んだのだった。

しかし、GAFAに代表される一見CGM的なプラットフォーマーが現れた結果、今何が起こっているだろうか。ここまで述べてきたようなインターネットの持つ民主性、あるいはWeb2.0が持つ草の根的なものとはまったく逆の、ターゲットマーケティングの拡大に伴うプライバシーの独占が起こってしまったのである。

これに対抗しようと出てきた概念がWeb3なのである。これまでのWeb1.0からWeb2.0の流れへのカウンターカルチャー、つまりアンチテーゼの色彩を帯びているので、Web3.0ではなくWeb3なのだ。つまりGAFAに頼らず、ブロックチェーン技術を基盤とした分散型のウェブの世界のことをこう呼ぶのである。ブロックチェーン以前のインターネットの世界では、どうしてもデータドリブン優位になってしまう。従ってビックデータを獲得し得たところが独占的に一強になる。しかしブロックチェーン技術を用いると「分散化」「透明性/検証可能性」「所有権の明確化」などが行えるため、必ずしもGAFA優位の世界観にはならないのである。

つまり、Web3とは技術の話ではなく概念の総称であり、それを実現させる主な技術がブロックチェーンということになるのだ。

Web3の概念は、仮想通貨Ethereum​のCo-Founderであるキャビン・ウッドによって提唱されたとされており、ウッドはWeb3 Foundationを立ち上げて、この概念の丁寧な説明と普及に努めている。

私は1997年頃から真剣に研究を始めたが、その手の人たちからすると「またか」という話でもある。1950年代に起源をもつインターネットのパケット通信技術も、もともとは分散コンピューティングそのものだったし、CERN( 欧州原子核研究機構) ティム・バーナーズ=リー 氏がWWWWorld Wide Web を発表したときも民主的手段だと言われ、Web1.0やWeb2.0のときもその精神が受け継がれていたはずだった。しかしGAFAのようなデータドリブン企業が出てきて、その精神とは真逆の現象が生じた。そしてブロックチェーン技術に裏打ちされ、次はWeb3である。さて、このまさに政治闘争のような活動は「3」で終焉を迎えるのだろうか。個人的にはそうは思えない。インターネットがオープンソース技術に支えられている限り、この戦いは続くのだろうと考えている。



ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー 兼 IT前提経営®アーキテクト
立教大学大学院 特任准教授
高柳寛樹
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高柳の著書はこちらよりご参照ください。
「IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く (近代科学社digital)2020
まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」 (ハーベスト社)2017
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