【バズワードに飛びつかない】なぜITの「適切な導入」が重要なのか

こんにちは、高柳です。

2017年に ノマドワーキングの実践書 を出版して以来、「ITの導入とノマドワーク」のような題材でお話しをさせて頂いたり、企業様へ働き方改革のアドバイスなどをさせて頂いたりすることが多くなりました。しかし、当然ではあるのですが、すべての業種でノマドワークが出来るわけではありません。むしろ、できる業種の方が少ないのではないか、という話をアドバイスの冒頭にさせて頂きます。この辺りはコロナ禍を通して、他のブログ 日本サービス学会への寄稿 等で述べてきました。IT前提経営®︎の6大要素の1つに「ノマドワークの適切な導入」がありますが、この「適切な」というところが肝だというのが今回のお話しです。

<IT前提経営®︎の6大要素>

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「クラウド化」の考え方もそうです。通信インフラの進化などにより、今や「クラウド化」は当然のことになりましたが、それでも時と場合によっては「 オンプレ 」の方がコスト的にも使い勝手的にも良いことがあります。「クラウド化」のような概念は一種の「バズワード」ですから、実務においては十分に注意する必要があります。

例えば、映画業界でもこの様なことが起こっています。私が小学生の頃、母に連れられて母の実家の金沢にある映画館にスターウォーズの1作目を見に行った記憶が微かに残っています。なぜ残っているかと言えば、もちろんスターウォーズそのもののインパクトもそうなのですが、映画開始早々、フィルムが逆に映し出されたからです。映写室に居たのは熟練の技師ではなく、学生アルバイトだったのかもしれません。この手の話はフィルム時代には良く聞きました。私が教えている大学の学部ゼミ生は「史実」として理解はしているものの、体験としてはまったく知らない世代になったと思います。

この時代の映画のデリバリー方法は、フィルムそのものを映画館に届ける、というものでした。丁寧に扱い、コピーやデリバリーにかなりの時間とコストがかかったはずです。今は多くの場合、USBの様な小さな記憶媒体でデリバリーされています。しかし、最近はUSBの様な媒体すら使わずに、インターネットを介したダウンロードになるケースも少しずつ増えています。「そりゃそうでしょ」と思われるかもしれませんが、これが実は凄く難しいのです。

何せ、データ量が膨大です。高画質、高音質はさることながら、最近では4DXのように、アトラクションの一部となった座席を動かすデータなどが付加されていることもあります。あまりに膨大なデータのやりとりはインターネットやクラウドの利用は適していません。

緊急事態宣言中、映画配給会社の社員がどうしても会社に行かなくてはいけない理由の1つに「ムービーデータのダウンロード」という話がありました。ダウンロードするのを一日中見張っているのです。データは一定の連続性が保たれていることが重要ですので、途中でエラーが発生した場合は「やり直し」になります。したがってそれを人が見張ってる必要があるのです。正に1日仕事です。家でやればいいじゃないか、という話もあるのですが、仮に家のインターネットが高速で安定していたとしても、PCに入った巨大なデータをどうやって動かしたら良いでしょうか?こういったデータは、それこそ物理的な大容量の記憶媒体でデリバリーする方が適しているのです。しかし、ご承知の通り、コロナ禍の初期は国際的にロジがダウンしてしまいました。したがって、海外のスタジオから日本の配給会社へはインターネットという方法しかなかったのです。

となると、実は映画がデジタル化した後も、保管媒体としてテープを使った方がコストが安くなることも考えられるかもしれません。大容量のデータの保管には、今でもテープが使われています。実は、ハードディスクは永遠ではなく、消耗品ですので、テープにデータを保存しておけば、ハードディスクなどよりも長く保つケースも多く、また、マルウェアに感染したり、ネットを介して情報漏洩したりすることもありません。その代わり、通気性の良い物理的なセキュリティーで管理された倉庫は必要になりますが。

何でもかんでも検討なしにクラウド化してしまうと、データの保管だけで巨額の費用を払わなくてはならないというケアレスミスが散見されます。確かに「 チープ革命 」でディスクそのものは無料に近くなったのですが、私たちが物理的なディスクを意識せずにサービスとして使えるようになった一方で、SaaS(Software as a Service)と言われる様に、ベンダーはサービスとしてクラウドを提供しているため、無邪気にデータは全量保存し放題、という訳にはいかず、データ量に応じた費用を支払うしかないのです。

この映画配給会社の例もそうですが、ITの導入では「適切性」が極めて重要になり、それは「適切な」という言葉が表すように非常に抽象的な塩梅であるため、どの技術を使うかという見極めがとても難しいのです。

もっと身近な例でいうと、最近のアクションカメラやホームビデオなどは4Kや、場合によっては8Kで撮影ができます。このこと自体は、10年前には想像できなかった素晴らしいことではあるのですが、4Kや8Kで手頃に撮影したデータは、なかなか私たち素人には扱えません。編集のためにカメラからPCにデータを移すだけで物凄い時間がかかったり、そのデータを編集しエンコードするには、それこそ1日かかってしまったりと、皆さんもそんな経験があるのではないでしょうか。
4Kや8Kもある意味では「バズワード」です。したがって前述した通り、この手の最新技術は実務においては「適切な導入」がとても重要なのです。

IT前提経営®︎アドバイザリーでは「ITの適切な導入」をご支援させて頂いています。バズワードに基づく最新技術導入ありきではなく、各クライアントの特性に応じて、場合によってはITを導入しないという判断を下せるという点が特徴です。システム化することによって却って負荷が上がる 、システム導入のコストに見合う効果が得られない、といった場合にはあえてマニュアル対応を残すといった柔軟な発想により、システム導入前提ではなく、常に経営に寄り添う立場からIT全般に関するアドバイスをさせて頂いています。

 

ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー
株式会社ウェブインパクト 代表取締役
立教大学大学院 特任准教授
高柳寛樹

 

 

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