ガーディアン・アドバイザーズの事業推進チームに新たに加わった新入社員・大井。 M&Aについては、まだ学び始めたばかりです。
この連載では、そんな大井がM&A初心者代表として、CEOの佐藤に率直な疑問を一つずつ投げかけていきます。 1999年から一貫してM&Aに携わってきた佐藤の言葉を通じて、現場の視点でM&Aの基本をわかりやすく紐解いていきます。
前回は、「M&Aの歴史」をテーマにお届けしました。日本におけるM&Aの原型を探り、坂本龍馬の亀山社中や、江戸から続く老舗企業の意外なつながりにも迫りました。今回は公民の教科書にも登場する「カルテル」「トラスト」「コンツェルン」といった独占形態を取り上げ、M&Aと独占禁止法の関係について学びます。
佐藤
商売で利益を出すために、一番効果的な方法は何だと思う?
大井
独占する、でしょうか。
佐藤
そう!経済学的にどうすれば一番儲かるか。答えは単純で、独占すること。競争相手がいなければ価格はもちろん、供給量や取引条件も自由に決めることができる。
だから企業は「どうやって競争を避け、独占状態に近づくか」を考えてきた。その代表例がカルテル・トラスト・コンツェルン。
大井
カルテル・トラスト・コンツェルンについては公民の授業で聞いたことがあります。それぞれどう違うのですか?
佐藤
まず、カルテルは「協定による競争制限」。同じ業界の企業同士が、競争を避けるために価格・生産量・販売地域などについて協定を結ぶこと。トラストは「企業統合による市場支配」。複数の企業が買収や合併によって資本的に統合され、単一の巨大企業として経営される形態。コンツェルンは「持株会社による多角的グループ経営」で、金融・製造・サービスに跨る戦前の財閥のイメージ。
大井
なるほど。確かにそれだと競争がなくなりますね。
佐藤
だから健全な経済のためには「独占禁止法」が必要になる。アメリカだと「反トラスト法」という同様の法律がある。
つまりM&Aは成長戦略の手段である一方で、市場独占につながる危険性もあるから、独禁法とのせめぎ合いの中で語られてきた。
大井
今でいうと、Googleに独禁法の指導が入るのも同じような流れですか?
佐藤
その通り。検索市場でGoogleが支配的な立場にあり、競争や利用者の選択肢が制限される可能性があることや、Appleが自社のエコシステムにユーザーを囲い込んでいることなどは、今でも議論の的になっている。
M&Aの世界も同じで、「実行してはいけないM&A」というのは確実に存在する。単なるビジネスの論理だけでなく、社会全体のルールの中で許容されるかどうかが問われる。
大井
確かに、ビジネスの論理だけで突き進むと、社会全体のルールや視点を見落としがちになりそうですね。
佐藤
私自身、学生の頃からM&Aという言葉は知っていたけれど、最初に学んだのは法学の独占禁止法の講義だった。そのせいか、当初はあまり良いイメージを持っていなかった。社会人になってからも、「会社を売る=家を手放す」といったように、M&Aがネガティブにとらえられる場面は少なくなかった。けれど、近年では「新しいチャンスをつかむ手段」としてM&Aが社会に受け入れられ、市民権を得てきている。とはいえ、独占や市場支配につながる可能性は常に存在するから、経済の健全性を守る視点は欠かせない。
次回は、会社を売る理由に焦点を当てます。資金や戦略上の理由、事業承継など、買い手とは異なる視点からその背景に迫ります。