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企業のDX推進に不可欠な“経営陣のコミットメント” 「重要なのは企業文化そのものを変革すること」

DX建設・不動産

笠清太氏/三好不動産取締役
高柳寛樹/ガーディアン・アドバイザーズIT前提経営®️アーキテクト、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科准教授

福岡都市圏の不動産業大手・(株)三好不動産(本社・福岡市)がいま、社内DX化を精力的に進めています。昨今のキーワードである「DX」とはいったい何なのか、そしてその実現のために何をすればいいのか――。今回のDX推進で主導的な役割を果たす同社取締役・笠清太氏と、IT前提経営®️の提唱者で、当社のIT前提経営®️アーキテクトである高柳寛樹が、その経緯を振り返りました。

 

案件概要

9年前に導入した社内システムが、その後の追加開発などで複雑化してしまったことに課題感を持っていた三好不動産。社内システムの再構築とその後のDX推進に向けて、ガーディアン・アドバイザーズがアドバイザーとして任用されました。その後、5カ月かけて同社のITグランドデザインを構築し、ベンダー選定まで実施。現在も、そのグランドデザインの実施に向けて支援を継続しています。


三好不動産

福岡市を中心に賃貸管理、賃貸仲介、売買仲介、資産運用コンサルティングなどを手掛ける1951年創立の総合不動産コンサルティング会社

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■導入したのはいいけれど…

――いま社内で取り組んでいるDX推進について、その経緯を伺いたいのですが、じつは三好不動産ではすでに9年前の2013年に、顧客管理システムや営業支援システムとしてSalesforceを導入しています。不動産業界では、かなり先進的だったのではないでしょうか?

笠氏(以下、笠) 当時、私は営業担当の執行役員で、Salesforce導入を先導したのは前任の経営企画・情報システム担当役員です。当時は部署や担当者ごとに情報が散らばっている状態で、それをきちんと集約しようという思いで導入しました。

高柳 2013年の時点で導入決断した三好不動産様は、業界ではトップランナーでしょう。いまでも、さまざまなクラウドサービスをそれぞれの部署で使っていて、最初にお話を聞いたとき、社内にもともとITがものすごく好きな担当者がおられるか、そういう新しいものに抵抗がない企業文化があるのか、どちらかだと思いました。
こうしたシステムは、かつては相当な資金をかけないと導入できませんでしたが、ここ20年程で格段に導入が簡単になりました。10億円必要だったものが5000万円で可能になった、くらいの感覚です。
ただその一方で、導入したのはいいけれど業務で使われていないという事例が多く見られます。実際の日々の業務のなかでシステムをどう使うのか、社内にどう浸透させるのかというノウハウがないんですね。これは三好不動産様だけでなく、日本全体で大きな問題になっています。


 弊社もその通りで、Salesforceを導入して2年ほどはあまり使われていない状態だったんですが、それを使っていこうという方針のもと、それぞれの部署がそれぞれの業務に合わせていろいろな機能を開発していった経緯があります。そこまではよかったんですが、その結果、業務の数だけシステムができてしまい、全体としてどんどん複雑なものになってしまいました。それが今回、高柳さんにお声がけさせていただいた根本の理由です。

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高柳 導入したのはいいけれど、それが最適に使われているか、あるいは、それぞれのサービスが適切に連携しているかということに、笠さんは非常に強い危機感をお持ちだったのですね。組織として効率的にシステムを使いこなすには、そのための会社全体を貫く大きな方針が必要です。今回は、その方針を構築し直し、より明確化させるためのサポートを当社がさせていただくことになりました。


――こうした問題が、企業規模の大小を問わず全国で起きている、ということですね。

高柳 はい、その通りです。経済産業省のレポートではこの先、企業でIT人材不足のままシステムの老朽化、複雑化が進み、さらにはサポート終了の時期が訪れる「2025年の崖」が指摘されています。
企業において、DX推進には「人事施策」「文化の更新」「科学の導入」の3つの要素が合わさることが必要です。「科学」は言わずもがなですが、IT人材確保のために、これまでの社内人事の慣例からどれだけ脱却できるか、そしてトライ&エラーが許される企業文化があるかどうかは、大きなポイントです。これまでの経験上、規模が大きい、あるいは社歴の長い企業では、現場が焦っているのに経営陣の動きが鈍いケースが多い。そのなかで三好不動産様は長い歴史がありながら、判断がスピーディで、いい意味でオーナー企業の強さを感じます。

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■経営トップの会議に参加


――笠さんが今回、社内のDX推進でガーディアン・アドバイザーズに相談したのはなぜですか?

 最初にコンタクトを取ったのは2020年の後半でした。先に申し上げた通り、われわれのシステムが部署ごとの機能開発によって複雑化してしまい、しかもそれぞれの連携がうまくいっていませんでした。その一方で、システム導入時のベンダーさんからは、「リソースの問題でこれ以上、開発を続けるのは無理」と言われてしまっていました。
こうした状況を打開するにはどうしたらいいのかと、いろいろと相談するなかで、「そういうことならば、高柳さんがいいのでは」とある方から名指しでご紹介していただいたので、ご連絡したという次第です。
私はテック系に関心はありますが、専門知識があるわけではありません。ただ、何が原因か知りたい、同じ失敗を繰り返したくないという思いがありました。まず現状について高柳さんに資料やデータをお送りしたうえで、最初にお目にかかったときに、いま弊社で起きていることの根本原因を論理的にわかりやすく教えてもらい、それが本当に腑に落ちたので、すぐにお願いさせていただきました。
もともとのベンダーさんにはもう少しお付き合いいただきながら、新規のシステム開発はすべて1年ほど止めて、その間に高柳さんから「今後の根本的なITグランドデザインをきちんと策定しましょう」というご提案をいただきました。

高柳 業務のDX化とは、つまり①データを正しく整理して保存し、②それを閲覧し、③そのデータを生かす、ということです。ところが、多くの企業では、あちこちのシステムにデータが次々といっているのに、それを経営にどう使うか見えていない、という状態です。

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組織において、どのようにITを使ってDXを進めていくかという大きな方針が「ITグランドデザイン」です。その策定のために、トップとのディスカッションや社員のみなさんへのヒアリング、あるいは、これまでの事業の分析などに数カ月の作業を費やしますが、じつは企業のDX推進において、いちばん重要なことは、その企業の文化そのものを変革することなのです。
三好不動産様でも5カ月かけてITグランドデザインを書かせていただいて、ご承認いただいたものを、いまは1つずつ、第1章の第1節から実践する作業を進めているところです。

 その意味で、いま高柳さんには、われわれの経営計画を立てる会議にもご参加いただいていますからね。
その会議では、当社代表の三好修自らがとなえるDX加速化への指示を受け、様々な施策が練られることになった経緯があり、高柳さんもお呼びしています。

高柳 えらそうなことを言うようですが、実際のところ、経営トップの会議に参加できないような状況では、われわれはこの仕事を引き受けることができません。なぜならば、そうしないと何もできないからです。たとえば、情報システム部門は多くの会社で「間接部門」と呼ばれていますが、それではダメです。今回、三好不動産様は、これまでの情報システム部門を改組して、経営のど真ん中にDX推進部を立ち上げました。これが正しい姿だと考えます。いまも社長をはじめとする経営幹部が集まる会議に出席してお話しをさせていただいて、皆さまに少しずつご理解いただくという作業を地道に続けています。

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■DXを難しく考える必要はない


――ここまで具体的には、どのようなことをしてきたんですか?

 5カ月かけてITグランドデザインを作成する過程で、高柳さんに伴走していただきながら、システムとはなにか、ITとはなにか、そしてDXとはなにか、という根本の理解を社内で浸透させてきた、というところが大きかったと思います。システムのことはわからないから、と経営陣が専門家に丸投げするケースをよく見聞きしますが、経営陣が自ら決定に関与しないと物事を正しい方向に動かせないことがよくわかりました。
現在は、できあがったITグランドデザインをもとに、部門長を中心に約30人のメンバーが月に2回集まって、DXを加速する全社的なプロジェクトを策定しています。部門長たちは、少なくとも全体のグランドデザインと、自分の部署の業務に必要なシステムを最低限理解するところからスタートして、約2年かけてDXをどう推進していくかをきちんと理解し、社内での推進役になってもらう予定です。

高柳 DXと言っても、なにも難しい話ではありません。私は、企業にアドバイスをさせていただくときに、よく「No Making, Just Using(作らず、使え)」という言葉を使っています。
最近は「Fit to Standard」と言われるように、業務のためにシステムをつくるのではなく、業務をシステムに合わせる思想が主流になりつつあります。三好不動産様に必要なのは、まさにこの考え方です。

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いま不動産業界は、物件情報のデジタル化が進み、国主導で電子契約の取り組みが広がるなど変革期の真っただ中にあります。さらにコロナ禍という先の読めない状況のなか、こうした“外圧”を受けて、業界のDX化が急激に進む可能性があるタイミングだと言えます。と、そう言うと仰々しいですが、実は組織のなかの一人ひとりのDX化はどんどん進んでいます。個々の社員もひとたび家に帰れば、個人の生活のなかで親も子どもも毎日、スマホを駆使しているわけですから。

 たしかに業界で考えても、たとえば、家賃を滞納された方は電話をかけても出ないものです。でも、携帯電話にショートメッセージを送ると振り込まれてくることが多いんです。ですから、家賃を催促する我々の部隊は、連絡用に全キャリアの携帯を揃えているほか、お客さまの携帯番号は必ずいただいています。こういったものも、“ささやかなDX”なのかも知れません。

高柳 そうです。そこで携帯の全キャリア分を揃えるというのも、1つのプロジェクトですよね。このような事例こそがDX。DXとは何かということを、そんなに難しく考える必要はないと思いますよ。

 

■「日本の病」そのもの


――それでも、なぜ日本では企業のDX化がなかなか進まないのでしょうか。

高柳 一般論ですが、日本の企業の多くは、情報システム部門が社内で孤立しています。システム部門が何か新システムを導入すると「使いづらい」などと文句を言われ、使いやすくしようとすると「そんなにカネがかかるのか」と言われる。これが日本の病そのものだと思っています。
なぜこういうことが起こるのかと言うと、文句を言う側がITのことを理解していないからです。企業がIT投資してソフトウェア資産を構築するのは、言ってみれば、商品を運ぶためのクルマを買うのとなにも変わりません。ただ、多くの企業の経営陣にとって、クルマの動かし方は知っているけれど、ITに関しては経験値がない。だから、クルマを買っておきながら、「何でこんなところにハンドルがついているんだ」と文句を言うようなことが起きているのです。

 

――社内で意識を共有することが、いかに大切かがわかります。最後に、いま三好不動産のDX化はどこまで進んだと言えますか?

高柳 私どもの仕事としては「5合目」くらいでしょうか。でも、三好不動産様側の感じ方はもっと低いと思います。

 そうですね、私は「4合目」だと思っています。

高柳 (笑)。ここまで議論して方針を決めて、その方針に合ったベンダーを選んで、そのベンダーにこちらの哲学を伝えるという作業をしてきました。もう少しすると、新しいシステムが目に見えて動き出す、という次のフェーズに移ります。その意味で、ちょうど折り返し地点というのが、DXアドバイザリーをしている私たちの認識です。

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※対談は「WeWork 丸の内北口」で行われました。

 

取材・構成/西川修一
写真/伊ケ崎忍
編集/POWER NEWS

 

 

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