EUがスマホの充電規格をUSB Type-Cにする法案を公開 〜標準化(Standardization)の切り口からこの戦略を考える〜

2021年9月23日にEUの欧州委員会がスマートフォンをはじめとするいくつかのITガジェットについて、その充電規格をUSB Type-C(以降、USB-C)に統一する法案を公開しました。日本でも多くのメディアが取り上げたためご存知の方も多いのではないでしょうか。

論点は

1. USB-Cをデバイスやブランドに関わらずどんなデバイスでも充電できるようにする
2. 意図的に充電速度を制限することの禁止
3. 充電ケーブルの製品への同梱を禁止しそれを分離する
4. 充電に関する性能の情報提供の義務付け

の4点になります。

既に皆さんもご承知の通り、Appleの一部製品が使っているLightningケーブルが暗にこの主な対象となっており、Appleはいたるところでこの法案が「イノベーションを阻害する」という論調で批判を繰り返しています。

"We remain concerned that strict regulation mandating just one type of connector stifles innovation rather than encouraging it, which in turn will harm consumers in Europe and around the world,"
こちら より引用

一見、消費者保護に思えるこのEUの動きですが、市場の獲得に関する標準化(Standardization)の戦いの典型的なフォーマットです。

標準化の類型は一般的に

1. デジュール標準
2. デファクト標準
3. オープン標準

の3つに大別されます。ひと昔前はこのオープン標準は加わらず、デジュール標準とデファクト標準だけだったので話は簡単でしたが、インターネットの登場で3つ目のオープン標準が加わり複雑になってきました。

一言でいうのであれば、デジュール標準はISO(国際標準化機構)などの「権威」がトップダウンで決める技術標準で、デファクト標準は、いわゆる「事実上の標準」で市場原理が決める標準です。昔はこの説明にベータとVHSの話が鉄板でしたが、昨今のビデオカセットテープを見たことのない学生にはもはやこの話は通じません。そして、インターネット、つまりその技術の根幹であるTCP/IPが標準になる過程はデファクト標準よりも複雑で、情報が公開され共有されながら「民主的」に標準化されたためオープン標準として分類されてきました。

つまり、オープン標準の立場にたてばAppleの主張も十分に理解できるのですが、事はそんな簡単ではありません。TCP/IPが世界を制覇するまでの長い歴史(1950年代後半からの議論に遡ります)には、標準獲得のためのさまざまな駆け引きがあったことも事実です。

さて本件が注目される争点となった理由は、それが「充電プラグ」だったからだと思います。つまり、世の中が「ソフトシフト」した時代の「ハード」だからです。このUSBの形を私たちは変えることができないのです。ソフトウェアだったら、プログラムを書いたり修正したりして、バーチャルに機能を変えていくことが可能です。しかし、ハードだと、金型からやらなくてはならない。しかも「充電」という命より大切な行為をするためのインターフェイスです。

例えば、最近の車に設置されているUSBは、これまでのType-AからType-Cに移りつつあります。仔細に見ていくと、欧州車はほぼ完全にUSB-Cになっており、国産車はまだUSB-Aが主流です。つまり、ユーザーに極めて近いところで、スマホなどのメーカーの思惑や決定に大変多くの関係者が左右されるのです。同時にそれは接続しなくても済む問題ではなく、「充電」という行為を100%支配するための「ハード」ですので、必ず接続しなくてはならず、絶対に無視することはできません。

無論、消費者保護の観点や廃棄物極小化の観点においては、誰も異論はありません。しかし「イノベーション」の切り口でAppleがこれに抵抗する理由は、自由なテクノロジーの開発が極端に大切であるという側面がある一方で、別の側面においては「標準獲得」という側面が無い訳ではないのです。

イシエル・デ・ソラ プールの『自由のためのテクノロジー』という名著があります。ここには「自由」もまた政治であり制限であるという説明がなされています。インターネット(TCP/IP)が世界中で支持されるまでになる歴史の研究は多く行われていますが、その研究の争点の多くは「本当に自由なテクノロジーというものはあるのか」という点です。昨今「オープン×××」という表現を多く聞くのですが、それが本当にオープンかどうかは疑って検討しなくてはいけないのです。

今回の欧州委員会からの発信は、そういった意味で、対米的な極めて欧州的な発信だなと個人的にはとても興味深く見ているところです。今後のAppleとの対話、議論がとても楽しみです。



ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー 兼 IT前提経営®アーキテクト
立教大学大学院 特任准教授
高柳寛樹
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高柳の著書はこちらよりご参照ください。
「IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く(近代科学社digital)2020
まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017
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