IT前提経営®️ブログ

2021.07.30

「プラットフォーム・ロックイン」という憂鬱から抜け出すために考えるべきこと

APIエコノミーについての議論が盛んだ。

かつて2013年に「ウェブシステムの生態系」という研究ノートを私が所属する大学の紀要『応用社会学研究』に書いた。その時は生物学の寄生と共生の概念に擬えて説明したのを覚えている。ちょうどFacebookがInstagramを買収した前後で、宿主であるFacebookのAPIを利用して共生していたInstagramが片利共生となり最後はその宿主に吸収される形でなくなっていくという様は、森の木々に寄生する多くの生物を見ているかのようだった。

つまり、必ずしもAPIエコノミーにおいて、それぞれのサービスが安定した共生状態でサステナブルではないということである。
そうなると、一般ユーザーとしても企業ユーザーとしても、どのサービスが「食う側」なのかということに興味が出てくる。「食われる側」を選んでしまうと、後々不利益を被りかねないからである。

SaaS(Software as a Service)同士が連携して形作るAPIエコノミーにおいて、その選択の千里眼は将来のリスクをコントロールする意味でも極めて重要である。同時に、あるサービスを選ぶという行為は、その行為自体が事実上「プラットフォーム・ロックイン」状態になることを意味する。

プラットフォーム・ロックインという言葉は必ずしも市民権を得ていない。一方で、ベンダー・ロックインは耳が痛い言葉として市民権を得ている。この問題は経産省の発表した「2025年の崖」にもその問題点が指摘されているし、このブログでも事あるごとに書いてきたので興味のある方は関連ポストを参照して頂きたい。

さて、これまでFit to StandardNo Making, Just Usingと言ってきた私からすると、プラットフォーム・ロックインの議論は避けて通れない問題で、争点を明確にしなくてはいけない。
ただこの問題はよくよく考えると、これまで人々がテクノロジーを利用する歴史の中で長く行われてきた「技術決定論」そのものとも言える。もはやパソコンのOSはApple、Microsoft、Googleに支配されており、そのどれかのプラットフォームを選べば完全にロックインされる。私の場合は完全にAppleにロックインされており、先日も長く使ったMacBookProを買い替えたが、その時にWindowsにする選択肢はもはや残されておらず、専ら今はAppleTVのサブスク契約を追加するかどうか自問自答の日々が続いている。

あるいは東京の人が公共交通機関として「決定」したものと、地方の人が決定した公共交通機関は微妙に異なり、更に別の国との比較ではまったく異なる。
または東京オリンピックを華々しく映し出す「地上波デジタル」という技術もまた「決定」されていて、それ以外の選択肢は排除されている。テレビについてもっと古い事を言うならば、今から100年ほど前に機械式テレビの研究開発を行った川原田政太郎氏と、電子式テレビの研究開発を行った高柳健次郎氏の戦いでは、昭和天皇の「天覧」という文化装置により電子式テレビにその技術的プラットフォームが「決定」された。

そう考えるとCRMの基幹システムとしてどのSaaSを選ぶか、会計の基幹システムとしてどのSaaSを選ぶかという議論とも似ている。要するに重要なのは「先を見越した選択」ができるかどうかだ。
一方で、この議論にタラレバはない。もしあの時機械式テレビを選択していたらどうなっていたかという議論について、社会学的には「忘却」される運命にある。

無論、かつての選択を批判的に議論して修正していくことは重要だ。仮にかつてCRMのSaaSとしてSalesforce.comを選んだが、後の時代になって自らの業務とのFit Gapを分析したり、その時の経済状況によりコスト高となり他のものに乗り替えることも十分にあり得る。
この先永遠に、当初選んだサービスを使い続けられることは望ましいが、残念ながら日進月歩の世界ではそうも安心していられない。

このプラットフォーム・ロックインの問題点は主に

          1. 1.利用料のコントロール権がプラットフォーマーにあること
            2.そのサービスの継続性(M&Aを含む前述の寄生、共生の議論)
            3.個人情報/企業情報などの情報主権
            がプラットフォーマーとユーザーのどちらにあるのか

            の3つに集約される。

            どこかで乗換えたり捨てたりすることを前提とした場合、将来のその仕事をスムーズにするためにも(3)は特に重要だ。
            つまり、当該サービスの中に蓄積されてきたビックデータのコントローラビリティである。

            私たちは助言の中でDXのプロセスを「Phase1. 守り」「Phase2. 攻めと守りの中間」「Phase3. 攻め」に分けて進めるが、まず足元を固める「守り」のDXにおいて−−−つまりそれは、データの入力習慣と正しい保存だが−−−しっかりと正しい形式でデータを保管し、成長させていくことが重要なのである。
            その上で成長するデータの保有権を含めたコントローラビリティを常に持っておくと、他のサービスとの連携性も向上し、APIエコノミー時代の勝者に近づける。
            それと同時に、API連携がスムーズであると、将来起こり得るサービスの乗換えや廃棄においても、その経営判断や実務が極めて楽になるのである。




ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー 兼 IT前提経営アーキテクト
立教大学大学院 特任准教授
高柳寛樹
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高柳の著書はこちらよりご参照ください。
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まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017
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