大井
前回はアメリカの話が多かったですが、日本でのM&Aの歴史はどこから始まったのでしょうか?
佐藤
日本にも、実はずっと昔から“企業のようなもの”は存在していた。聖徳太子が四天王寺を建立する際に578年に創業された金剛組が世界最古の会社といわれていて、今は高松建設の子会社として存続している。株式会社という制度ができる前から、商売ののれんを分けたり、商家を買収したりという形で事業の売買は行われていたと思う。
大井
のれん分けって、M&Aの用語にも出てきますよね。
佐藤
そう、「のれん」は、企業のブランドや目に見えない価値を表す言葉だけど、もともとは日本の商習慣から来ている。たとえば、江戸時代から続く呉服屋の越後屋は今の三越の前身で、京都の大丸や高島屋も江戸時代にはすでに存在していた。
大井
そんなに歴史があるんですね!
佐藤
江戸時代の末期でいうと、日本で初の商社と言われるのが「亀山社中」。これは坂本龍馬が設立した貿易商社のような組織で、武器の輸出入などを手がけていた。坂本龍馬と交流のあった岩崎弥太郎が、後に三菱財閥を築いたのも有名な話。
大井
幕末がそんなにビジネスに結びついているなんて、驚きです。
佐藤
日本では「家業」という形で代々続く商売が多く、家業を売ったり貸したりといった形で、M&Aに近いことは日常的に行われていたはず。もちろん、現在の法制度に基づくM&Aとは違うけれど、実質的な事業承継や経営統合のようなことは昔から起きていた。
大井
つまり、M&Aって特別な手法ではなく、経済のなかに自然に組み込まれてきた営みなんですね。
佐藤
そう。歴史を知ると、今のM&Aもぐっと身近に感じられるようになる。
次回は、公民の教科書にも登場する「カルテル」「トラスト」「コンツェルン」といった独占形態を取り上げ、M&Aと独占禁止法の関係、そして現代の巨大テック企業にまで続く規制との攻防を紐解きます。