IT前提経営®️ブログ

2022.05.02

DXを「自分事」にするための体質改善を

n09824月初旬、「DX推進への道筋が描けるグランドデザイン策定の基本」というテーマでwebセミナーを開催し、多くの方にご視聴いただいた。ITグランドデザイン策定、すなわち、会社がその事業の目的のために行うIT投資においてとるべき具体的指針を作る際のポイントについて説明をしたのだが、DX推進の大号令で各企業が対応を迫られる中、「どこから始めればいいのか」と悩む経営者も多いのではないかと思う。そこで今回は、「DXはここから」という出発点について、より詳しく具体的に説明したい。その上で、先日のセミナーでお話ししたITグランドデザインの6要素について、過去のブログでの2回に分けて述べているので、ぜひ改めて読んで頂けたらと思う。

結論から先に言うと、DXは、組織の中でIT(情報システム)を担当する部門が、単体で人員と予算を使って手がけるものではない。だから、DX推進のためには、人員の配置と予算の配分の抜本的見直しから始めなくてはならない。

通常、この文脈における社内の組織としては、ITの専門部署として情報システム部門と、それぞれの業務部門といった、現場のビジネスを司っている部門が分かれて存在する。こうした構造は、日本ではどの企業でもほぼ同様だ。メーカーなら製造部門、商社なら営業部門、というように「最前線」の部門があり、それを、いわゆる「情シス」と言われる部門がITを使って支えているが、同時に、事業会社において間接部門と言われて、裏方のような位置付けとされてきた。

そんな中で、情シスは往々にして業務についての決定権などを付与されることがなく、かつ現場である業務部門との対立構造にある場合が多い。情シスの主導で何か新しいシステムを入れようとすると、「使い方がわからない」「現場がわかっていない」などと業務部門からクレームが入り、この対応に追われる。従ってこの手の話では、業務部門は「ユーザー」と呼ばれることも多く、私からすると、同じ会社なのに、情シスの顧客(ユーザー)がいることに強い違和感を覚える。確かに、情シスはITの経験が豊富だけど現場の経験があるわけではない。逆に、現場にはITの経験がない、というどこにでもある構図だ。

しかし、DXに向けて舵を切ろうとするならば、こうした違い、温度差を乗り越え、組織内での情シスの位置付けを見直さなければならない。つまり、製造部門や営業部門と同等の立場で「DX推進」部門が存在する組織に改編する必要がある。

ホームセンター大手「カインズ」のDXの成功事例が有名なので、例として説明したい。経済産業省が「DXレポート」の中で「2025年の崖」問題を提起したのは、2018年9月のことだったが、同社はこれに先立ち、2018年1月に「IT企業宣言」をした。1989年創業で、現在は全国に200店舗以上を展開するカインズが、この宣言によってしたことは、創業30年の節目を翌年に控え、第3の創業期と位置付ける組織の大改革だった。いわば、「DX推進宣言」である。

カインズの成功は、業務部門と、いわゆる情シス部門の「橋渡し役」的な存在として、デジタル戦略の拠点を新設したことにある。最前線の業務だけではなく、その背景をよく理解した者が、情シスとのコミュニケーションをとっていく。そしてこの「橋渡し役」は兼任ではなく専任として存在する。

最近では、例えば、いわゆるIT人材を情シスに固めず、社内の各業務部門に散らばる形で組織内に配置し、業務のプロと情シスのプロが机を並べて仕事にあたり、各部門を横に繋いでデジタル戦略を立案・推進するという組織形態に変更するということも選択肢の一つと考えられている。このやり方にチャレンジする企業も増えている。

私がDXアドバイザーを務めた案件では、社員1万人程度の会社で、8つの事業部門すべてから選抜した社員で構成するDX推進本部を新設する、というケースがあった。情シス部門で中途入社の専門家を雇用するのも必要だが、それだけでは、社内でDXを進める部門と現場部門との対立構造は解決しない。そこで、スキルチェックなどの社内の人材分析を丁寧に実施し、半年ほどかけてメンバーを選考した。最終選考では外部のアドバイザーや会社の取締役レベルが一同に会して面接をしてディスカッションする。このような手間暇をかけた選考をして、全社会議で社長みずからが大々的に任命をするキックオフを行った。これはこの会社だけではなく、弊社がDXのアドバイザリーを提供する場合、ほぼ確実にどの会社にもお願いすることである。

カインズの例にしても、弊社がDXアドバイザリーを提供した企業の例にしても、重要なのは、デジタル戦略を担う部門には、改革の旗手となる有能な人材を集めることだ。どの部門も、優秀な人に出ていかれたら困るから、そうでない人を送りたがるが、そうはしない。経営トップからキッパリと、DXは、IT前提経営®︎時代に会社が生き残るために避けて通れない課題で、株主や顧客にとっても経営の最重要課題である、だから成功のためには優秀な人に担当させなければならないというマインドセットをするためのメッセージングをしつこくしつこく何度も行うのである。

現実は、どの部署も人員不足で業務が逼迫している。しかし、その上で、「ITを使ってさらに効率化して収益と文化の改善を図りたいから、協力をお願いします」と、経営トップが丁寧に説明をして理解を求め、現場である業務部門が納得した上で、自部門の人員削減となるような組織改編に同意しなければこうした改革は不可能だ。現場任せでは絶対に進まない。

また、どういう組織形態であれ、こうした改革を進める上でポイントとなるのは、やはり予算だろう。

DX推進には当然、大きな投資がかかる。その予算をどこに持たせるかを考える時、情シスに持たせると単純に考えがちだが、そうではない。情シスだけが予算を持っているようでは、そこが独立した部門として存在し、コストセンターと化す。各業務部門は「うちの部門は関係ない」と他人事になってしまう。だから、DXに必要な予算は、例えば営業のシステムであれば営業部門の予算として持ってもらう形にし、そこが主体的に情シスと議論しながらIT投資を進める必要がある。よその予算であれば自分事にはならないが、自分の予算となれば真剣に取り組まざるを得ない。つまり、DX推進を他人事にしない、自分事にするという予算編成面からの大改革が必要なのだ。会社全体としての予算総額は変わらなくても、予算の分配を変えることは可能なのだ。

つまり、DXというのは、ITの部署に丸投げし、予算も人員もその中でなんとかするということではなく、会社の文化そのものを変えないといけない、つまり「文化の更新」が必要なのだ。

先に述べた通り、経産省が「2025年の崖」問題を指摘するように、DXをやらないと国が潰れるというのならば、経営者はまず、組織の中における情シスの位置付けを抜本的に見直し、DXが経営の1丁目1番地であるという認識を社員全員で共有することから始めなければならない。

文字通り、DXのXは、トランスフォーメーション、つまり、変身・変化であり、ともすれば、DX推進は気が遠くなるような息の長いプロセスのように感じられるかもしれない。だが、これまで様々な企業に対するアドバイザリー業務を提供してきた私たちが強調したいのは、ここで述べた「文化の更新」といった考え方をひとたび理解して頭の体操ができてしまえば、驚くほどスピーディーに、ITによる企業組織の効率化と、それによる収益構造の良化が進むということだ。

最終的にITを適切に導入し、文化が更新され、結果として収益構造がより良くなるのであれば、中期経営計画の中にもそれをしっかり表現し、そしてそれを読んだステークホルダーが納得する、計画と平仄のあった、エグゼキューションを講じる必要がある。そのための準備がITグランドデザインであり、エグゼキューションの第一歩が、IT組織/人材と予算配分なのである。



ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー 兼 IT前提経営アーキテクト
立教大学大学院 特任准教授
高柳寛樹
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高柳の著書はこちらよりご参照ください。
続・まったく新しい働き方の実践〜なぜ働き方は自由にならないのか。DX未完了社会の病理〜(ハーベスト社)2022
「IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く(近代科学社digital)2020
まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017
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